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ことの始まり




「三等賞大当たりー」
「はぁ…え? マジ?」

いつもの商店街、いつものスーパー、いつもの鶏肉、いつもの半額タイム。
毎日繰り返せば一枚しかもらえない福引予備券も貯まるというものだ。
で、試しに引いてみればこれである。ナイス俺。神に愛されている。
さて、商店街の福引とはいえ何がもらえるやら。

張り出されている目録を見る。

特賞、家族で白塩山温泉旅行。実に定番だ。
プラチナ賞、大型液晶テレビ。んん?特賞よりすごくないか?
ゴールド賞、ノートパソコン。型は遅れているが十分実用に耐える代物だ。
シルバー賞、商品券3万円分。商店街共通だから結構価値がある金券だと思う。

あれ?

ブロンズ賞、DVDプレイヤー。微妙に音源周りに難のある型だと知っている。
商店街賞、黒裏酒店寄贈『蛆の舞』。通好みの地酒である。俺の趣味には合わないけど。
ご愛顧賞、愛泥精肉店寄贈『和牛すきやき肉』。ああコレが欲しかったかも。
一等賞、商店街謹製エコバッグ。頑丈そうだ。

え? ここでやっと一等?

二等賞、スーパー楼全寄贈『ティッシュボックス』。いや、需要はあるが。
三等賞、実装専門店うらじみる寄贈『おたのしみセット(限定一名)』。
四等賞、ポケットティッシュ。


……


      *      *      *


「で コレをもらってきたデス?」
「うむう」

満面の笑顔であまりにも迅速に手渡された『おたのしみセット』。
一抱えほどもない小さな箱である。やけに厳重に梱包されているのが気になるが。

「食べ物デス?」
「かもしれないなぁ……」

ちゃぶ台を挟んで向こうにいるのは飼い実装のカビ助。
元来プライドが異常に高い実装石のプライドをさらに高め上げ、
ゆくゆくは些細なミスで士道不覚悟の責を問い切腹させようと上げ途中である。
ふんどし一丁でチョンマゲ頭のカビ助に促されたわけではないが、たしかに開けなければ始まらない。

丁寧に包装をはがすと、間仕切りされたプラケースが出てきた。

「食べ物の包装じゃないな」
「残念至極デス……」

無念そうなカビ助。そこまでか、と突っ込むのも馬鹿馬鹿しいので手早くプラケース開放。
中から出てきたのは。


      *      *      *


「はい、こちらはうらじみるです」
「ええと、商店街の福引に当たった者ですが」
「ああ、あれ引いちゃった人ですか」
「引いちゃった言うな。いや商品の話なんですが」
「返品は受け付けませんよ?」
「予防線はええな!? いやそれよりも商品説明をだな」
「見てわかりませんか?」
「つまり見たとおりのものと」

受話器片手にプラケースを見れば、中には5匹の蛆実装。
それも各々色が違う。これはもしかして。

「はい、俗に他実装というものに分類される蛆ですね」
「それが5種類と」

なるほど、黒い服、赤い服、青い服、ピンクの服、そしてこれは…しましま?

「なんでこんなものを賞品に…」
「売れ残ったので」
「生き物をこんな風に梱包するかなぁ!?」
「ああ、全員生きてたんですね。ご愁傷様で」
「廃棄物を商店街に提供するのはどうかなぁ!?」

受話器の向こうでボケ倒す店員の話をまとめると、他実装といわれる種は主に愛玩用……
それも程度の高いペットとして飼われることが多い。
すなわち、そんな中で未熟児として産まれた蛆実装には商品価値がつきにくいというのだ。
ただ小さな生き物として飼うなら頑丈で数もいる実装石の蛆実装でいいというわけか。

「まあ、たまたま珍しく種類が揃ったので、セットにして放出したという方向で」
「そんなゴミ袋がいっぱいになった程度の動機で……」

さっさと俺に押し付けようとしていた商店街連中の生ぬるい笑顔が思い出される。
体よくババを引かされたってか。シット。


受話器を置くと、カビ助が眠ってる蛆……酸欠のせいだとおもう……に手を伸ばそうとしていたところだった。



ぴんと思いつく。



「カビ助ェ! そこに直れ!」
「デ!? デスゥ!」

一瞬で下がって土下座をするカビ助。見事だ。
もっとも少しでも遅れたら切腹なのだが、今日から切腹のルールを変えることにする。

「今日からお前にその五匹の面倒見役を命じる」
「デデ!?」
「死なせたら切腹、糞蟲化させたら切腹、厳しくしすぎても切腹」
「条件悪すぎデス!?」
「口答えは?」
「く……士道不覚悟デス……」
「わかってるじゃないか」
「……うう……お役頂戴仕るデス……」

俺はどこにでもいる実装石を精神的になぶるのが大好きなとしあき。
他実装については全くの門外漢なのである。
ならばいつまでも隙を見せないカビ助を嬲るための道具に使わせてもらおうじゃないか。

こうして俺とカビ助とよくわからない蛆たちとの生活が始まったのである。


〈続く〉


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