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即席実装フルコース


寒いから帰りにコンビニでおでんでも買って帰ろうとしたら、
レジの横にパーティバーレルのような大きな紙ケースが積んである。

「これ何です?」
「即席新鮮仔実装フルコースセットですよ」

760円と実食にしては高すぎる値段だが、好奇心と鍋派の矜持にかけて見逃す手はない。
複数ある味の中から洋食セットを選ぶ。
すぐに食べる旨伝えると、店員が奥から新しくやかんを持ってきてお湯を注いでくれた。
そしてビニール袋の口を広めに開けて固定する。

「今丁度店の前に来てますね。このまま店の外まで出て行ってください」

モニターを覗いた店員が告げる。
俺はそのまま家路についた。

家に帰って容器の中を覗くと、託児された仔実装が顔だけ出してケースにはまっていた。
お湯のケースの上にトラバサミ状のプラスチック拘束板があり、
着地した仔実装が綺麗に挟み込まれたままお湯の中に落ちる仕掛けになっていたようだ。
ご丁寧なことに傾斜がつけられ、足からきちんと拘束されるようになっている。

「テチャァァ…」

茹りきった顔で仔実装が声を漏らす。
熱湯で満たされたケース内に仔実装が落ちたときから悲鳴は聞こえていたのだが、
家に帰った時の楽しみということで無視していたのだ。

説明書を読む。
まずは仔実装をお湯から引き上げるとある。拘束板をそのままお湯から持ち上げる。
茹で上げと同時に服を溶かし、洗浄をする効果のある試薬が湯には溶けていたらしい。

さらにお湯の底には糞抜き用の弁つきパイプがついている。
なるほど、仔実装を上から差し込めば下ごしらえは自動的に済んでしまうようだ。
お湯タンクの外側には各種ソースが設置され、こちらも平行して暖めてあった。

まずは茹で上がった仔実装の体から偽石を摘出する。
生命力の塊である偽石周辺は茹で上がり進行が遅いのですぐにわかるとある。
確かにわき腹の部分だけ少々火の通りが遅かったようだ。
付属の@と書かれたプラスチックナイフで簡単に偽石を取り出すと、
ソースDと書かれた小さめの容器に放り入れた。

「テチャァァァァ!」

何が起こっているのかは仔実装にもわかるようだが、まだ調理工程は残っている。
Aとついているタグを引くと、仔実装の両腕に絡まっていた紐が締まって、ころりと落ちた。
これはAと書かれたソースの袋に放り込む。

Bと書かれたYの字の仕切りを仔実装の下半身に当てて押し込むと、
鶏モモのような形状の足肉が2つ切り取れた。これはソースCの袋に入れるらしい。
茹で上がった実装の肉体は非常に柔らかく、苦もなく調理が進んでゆく。

「テヒュー テヒュー」

四肢を落とされ、胴の下半分を失った仔実装が涙を流す。
零れ落ちた涙と内臓がゴミ箱も兼ねた紙ケースの中に消えてゆく。
最後にCと刻まれた首にからんだ弁を締め上げ、首の外れたモツ抜き上半身をBの袋に入れた。
ソースを軽く揉んで味が馴染んだら完成。

前菜:野菜と実装腕肉のトマトソース和え
1の皿:茹で実装胸&腹肉のビネガーソース
2の皿:実装足肉のブラウンソース煮込み風
デザート:偽石のナッツ&チョコレート和え

4品を机の上に並べ、偽石からの過剰な栄養補給で生きている頭部を飾りとして中心に置く。
どのソースもそれなりに高いだけあって非常に美味。
柔らかい腕肉に野菜のソースの甘みが、油の多めな腹肉に酸味の利いたソースが
僅かに引き締まった足肉にコクのあるブラウンソースが実によくマッチしている。

食事が進むたびに仔実装の表情がころころ変わるが、これは少々悪趣味な趣向だなあと感じる。
最後、チョコレートの絡んだ偽石を噛み砕く段になって、初めて仔実装がまともな声を上げた。

「テチャ! テチャチェ! テェェ! …テッチューン♪」

リンガルがないので無視してそのまま噛み砕いた。
飴の絡んだナッツのようでなかなか美味だった。

ゴミに関してもマニュアルに書かれていた。
お湯をトイレに流したら、あとはそのまま内臓やケースごと燃えるゴミに出してよいらしい。
あるいはそのまま買ったコンビニで処分してくれるともある。
そして、絶命した頭部だけ分けて小さなビニール袋に入れておけとなっていた。
なぜかと思っていたらドアを叩く音がする。

「デデッス デッスー」

予想通りドアの外にいた親実装に、マニュアル通り小さなビニール袋を持たせてドアを閉めた。
なるほど、綺麗に片付いた。

「デス! デスス! デス…デ? デ デデ デギャァァァァァァァァ!!」

ドアの外から聞こえてくる悲鳴をBGMに、次はエスニック味を試してみようとぼんやり思った。


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