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毛×毛


「多毛種の改善……ですか?」

俺の言葉に教授と名乗った男は頭を掻いた。
双葉(ようよう)大学生化学科の研究室の一室である。

「普通実装石においては多毛はステイタスとなるものなんですがね」
「とはいえ飼うときはいいことばかりでもないんですよ」
「まあ、毛ですからねえ」

答えながら、教授はパソコンをいじる。
素人目にはさっぱりな表とか写真が出てきたが、そこはさすが学府のプロ、
わかりやすいように解説を入れてくれる。

かいつまむとこうだ。
実装シリーズの頭髪はそれぞれ同じように見えて、個体ごとに違いがあるらしい。
ちょっとしたショックで抜けてしまう飾りのようなものから、
時として全体重を支えるだけの強靭なもの、極端なものになれば内部に神経節を持った
一種の寄生生物と呼べそうなものまであるとか。

「中でも多毛と呼ばれるものは、髪においてクローニングが行われている種族が多いですね」

普通の生き物出れば、毛は毛穴から成長して伸びてくる。
しかし、多毛種の実装の場合は、一本の長い毛がそのまま二本に分裂するという。毛穴ごと。

「バカな」
「言いたい気持ちはわかるんですけれどねえ」

教授は今度は統計を出してきた。

「どう思います?」
「いや、私にはさっぱり」
「それもそうですね……わかりやすく言うと、『短毛の多毛種』が発見されたことがないんですよ」
「たんもう?」
「まあ、生えかけとか産毛とか、そういう多毛ですね」
「ああ……確かに」

言われてみればそうだ。
ふさふさの毛で卵(卵!?)を温める実装石や、まるで野武士のような面構えの実装、
ギャランドウを茂らせたものや脂ぎった可燃性の毛や宇宙人のような毛を持つものはいるようだが……
あれは本来持っている毛がデタラメに倍増してあちこちに生えただけらしい。

「つまり、多毛を治したいとなれば、一本残らず毛を奪ってしまうしかないのですよ」
「その一本を残せばそこからまたクローンしていくと」

オール オア ナッシング
程々に生きられないという実装のなんとも不器用な生態を聞かされて、俺は納得するしかなかった。

      *      *      *

「ということなんだが、どうするね獅子王」
「……以前みたいにエリザベスとは呼んでくれないのダワ?」
「気に病むなダス○ン獅子王」
「酷くなってるダワ!?」

いやあ、実装石なら容赦なくハゲハダカに出来るんだが……

「もうソウルフルって段階超えてるからなあ……」
「待つのダワ 別に裸にする必要はないのダワ」
「そういうのは毛圧で服を破かない仔が言うべき台詞だね」
「くっ……」

実装紅だと微妙にレゾンデートルに関わる問題なわけだ。もともと多毛の傾向があるし。

「お前の本質はむしろ毛のほうだしなぁ」
「酷すぎる侮辱なのダワ!」
「これからもよろしくな、ダス○ン」
「もう元の名前の原形を留めてないのダワ!」

獅子王の悲鳴が木霊する。まあ飼う方としては安全…飼いやすいってのは良いことだ。
鼻っ柱も凹んでるほうが可愛げがあるしな……とは言ってやらんけれども。


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