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いつか来た道


夕暮れ、会社帰りにたまたま実装石の一家を見つけた。
といっても向かいの家の生垣に隠れて寝ていたのであるが。
どうやら長い渡りの最中の一家らしく、親実装から仔実装までくたびれた様子で熟睡している。
うちの近くには大型の自然公園があり、実装の足でもあと一日もかからず着くはずだ。
しかし、ちょうど西日が差し込む生垣を寝床としたせいか、一家はとても寝苦しそうである。

「おつかれさん」

俺は実装の一家を抱え上げると、「道のちょうど向かいの」俺の家の生垣に移動させた。
ここいら一帯は建売住宅街であるから、どの家にも同じような生垣が付いているのだ。
ここなら西日も差し込まず、むしろ朝日で目覚めることができるだろう。
そっと運んだとはいえ、一家はみなちっとも目を覚まそうとせず、それが旅の厳しさを雄弁に語っていた。

がんばれよ、と声には出さずにエールを送り、俺は玄関の戸を開けた。


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