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いちにちいちぜん


朝、小学校に向かう途中で実装石の一家に出会った。
親実装が先頭を歩き、それに仔実装が付いていっている。
最後尾の蛆がぴょこぴょこ追いかけるのが面白い。
しかし、のんきな光景とはいえ場所は車道だ。僕は気が気ではなかった。
ほら、向こうから車が来たぞ!
親は道を渡りきっていた。仔もなんとか間に合いそう。
だけど蛆が間に合わない!このままじゃタイヤに轢かれてしまう!

僕は車道に飛び出し、蛆を拾い上げた。
そしてそのまま道の真ん中にあるマンホールの穴に差し込んだ!
すっぽりきっちりと穴にはまり込む蛆。
ここならタイヤの間になって蛆は轢かれないかもしれない。
蛆がもがいても、そこから動けないとわかったから、僕はあわてて歩道に戻った。

「バカヤローッ 死にたいのかクソガキ!」

横を通り抜けた車からは怒鳴り声が聞こえるけど、蛆は見事に潰されずに済んだ!
よかった…

「レフィ」
「デデッス! デッス! デェェェ? デェェェェ!!」
「テェェェェン テェェェェン」
「レェ レヒッ? レヒッ! レェェ レェェェェン レェェェェン」

蛆に気が付いた親と仔も戻ってきたようだ。
道にうずくまり蛆実装に話しかけている。安心を喜んでいるのかな。
おっと、そんな場合じゃないや。
そろそろ時間がやばいので、学校に向かわないといけない。

と、親実装がこっちに来る。ズボンの裾を掴んで何か言っている。

「デェェェ! デス! デェェス! デェェェェ!」

涙を流しながら何度も何度も僕に話しかけてくる。
きっと蛆を助けてくれたお礼を言っているのだろう。

「うん、お礼はいいよ。じゃあね!」

しつこく裾を掴んでくる手を払うと、僕は親実装に手を振って学校に走った。

「デェェェェン! デェェェェェン!」

振り返れば泣きながらこっちに向かって手を振る親実装。
こちらを追っているみたいだけど、流石に追いつけはしない。
ああ、朝からいいことをした!

学校の帰り道、さっきのマンホールの横を通った。
道にはなにかを洗い流したように水がたくさん撒かれていた。
もしかしたら蛆がそのままそこにいて、溺れていないか心配になり、
僕は車道の真ん中のマンホールを覗き込んだ。
マンホールには得体の知れない赤と緑の破片が妙にたくさん詰まっていて不安だったけど、
さっきの蛆の顔はそこにはなかった。

きっと家族で家に帰ったのだろう。
本当に今日はいいことをしたなぁと清々しい気持ちで家に帰った。



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