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越冬1レススク


終の棲家
「ママ、あそこにオウチがあるテチ」
「デデッ!? 空き家デス?」
「ほかほか湯気も出てあったかそうテチ」

秋の一斉清掃が終わり、家をなくして寒そうにしていた隣の公園の実装石たち。
あまりにも切なそうな泣き声を上げるので、頑丈そうなダンボールをひとつ見繕い、公園に持って行った。
トイレの裏側にある汲み取りタンクの蓋を外し、その上に入り口と底を抜いたダンボールを被せて固定する。

「デ!? あそこにおうちがあるデス!」
「やったテチ! 次女チャン もう歩かなくて済むテチ!」
「テチィ!」

市の職員に見つかるまで、一体どれほどの家族が終の棲家の敷居を跨ぐのかはわからない。
しかしこれで寒風に響く実装の断末魔を聞く夜も減ることだろう。
久しぶりの静かな夜に、満足しながら毛布に潜った。

等価交換
理想は発泡スチロール。壁にも床にも使えるというのは代々の親の教え。
おでんの容器やカップ麺の容器などは匂いもついていて特にいい。
一日かけて公園中を駆け巡り、親実装は新居の防寒準備を整えた。
大き目のコンビニ袋いっぱいの素材は見た目よりも軽く、満足な成果に親実装はスキップしながら帰路に着く。
途中の広場、今日は本当になんていい日だろう、愛護派のオバチャンがゴハンを配っている。
さりげなく列に混じる親実装。
そんな親実装を見つけたオバチャンは満面の笑顔で語りかけた。

「えらいわね、ゴミ集めのご褒美に多めにゴハンあげちゃうね」

取り上げられた袋の代わりに、手渡されたパンの耳3本。

「デー」

立ちすくむ親実装の影が夕暮れに伸び、そして帳に消えた。

ミス・リード
急な寒波によって生命の危機に立たされた家族にとって、暖かい自販機の下は最後の楽園であった。

「ママ ここに住みたいテチ」
「ダメデス ここはすぐにニンゲンに見つかって危ないデス」

たしなめるものの、親にとってもこの暖かさは魅力のあるものだ。

「こいつウチに連れてこれないデス?」

見ればこの硬い箱にはリードがついている。公園に来る飼いを見て親はその使い方を知っていた。

「これでオウチにいてもあったかくなるデス!」

思いっきりコンセントを引っ張る親実装。
結局、一家は一晩かけてジュースよりも冷たくなっていった。

マナーの灯火
公園のベンチで一服。
吸殻をピンと弾けば、いずこからか現れた実装石たちが吸殻に集まってくる。
草を片手に、燃えカスを叩いて…火を消そうとしているのかな?だったら枯れ草は逆効果だぞ?
幸い、どの実装石の草にも火はつかず、なぜか心落ちしたようにした実装石がこっちを見ている。
なんだか実装石に窘められた気がしながらも、二本目を吸う。
足元に吸殻を落とすと、駆け寄ってくる実装石達。
ああもう、わかったよ、危ないって言いたいんだな?
実装石達がたどり着く目前で、靴底で煙草を踏み潰し、完全に消火する。
足元でピシッと固まり、恨みがましそうに見上げる実装石達。
…まさか実装石にマナーを注意される日が来るとは。

三本目に火をつけ、期待にこちらを見上げる実装石達の前で煙を吐く。
そして見せ付けるように携帯灰皿に吸殻をしまってやった。

これでいいんだろう?感極まったのか、揃って泣き出す実装石達を跡目に寒風吹きすさぶ公園を後にした。


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