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デカ仔


「熱だなぁ」
「テチ」

愛実装のズンダのおでこから手を離すと、買って来た解熱剤を飲ませる。

「ゴシュジンサマ、本当に申し訳ないテチ」
「いいんだ気にするな。それより早く直せ」
「テェェ…テ、テ、テチュン!」
「ほら、チーンしろ、温かくして寝ろ」
「テチ…テチュン!」

ズンダは流行の実装インフルにかかったらしい。発症すると一週間は熱だのくしゃみだのが止まらない。
人間にうつることはないのでそこは安心だが、飼い主としてはやはり心配だ。
かわいくくしゃみをするズンダに布団をかけてやると俺は部屋から出た。

(ゴシュジンサマはいつも優しいテチ…)
(オンガエシがしたいテチ…)
(せめてもっと大きくてガンジョウになることが出来たら…)
(テ…テチュン ずび)

翌日。

「一般的にくしゃみの飛距離は最大5mと」
「テチ」
「その勢いで糸を吐き出したら繭がとんでもない大きさになったと」
「テチ」
「でかすぎますよね?」
「テェェ」

天井に頭をつかえさせた『仔実装』を見上げて何度目かの無駄なツッコミを入れる俺。
うっかり熱暴走のまま羽化してしまった仔実装は、でかく作りすぎた繭のせいで
グランデサイズの仔実装として生まれ変わったのである。
なにこれちっとも嬉しくない。

「動けますか?」
「テス(ぶんぶん)」
「首を振らないでください天井灯がえぐれて落ちました」
「テェ」

思わず敬語でガン泣きする俺。
困り顔のズンダ。困ってるのは俺である。いやお前もだけど。

「とりあえず縮むことはできますか?」
「テェ(めきめきめき)」
「丸まらないで丸まらないで天井破けるからやめてやめてやめて」
「テェ?」
「うん、今かわいく首を傾げたおかげで窓割れたからね」
「テチ」
「押さえなくていいからねというか今ので完全に窓抜けたからね」
「テェェ」

ペーポーペーポーペーポー

「しかもどうやら今の騒ぎで警察呼ばれてるからね」

「困りますよとしあきさん、こういうのは」
「ホントもう生きていてごめんなさい」

警官相手に頭を下げ続ける俺。死にたい。その腰に据えた物騒な鉄の塊で俺を撃ってください。
そんな俺の様子にズンダが不満そうな声を上げたり。

「テッテッチ」
「でかくても仔実装なんですねえ」
「ホントもうごめんなさいおまわりさん今の泣き声トイレの合図なんですまじで」
「え」

近隣1ブロックに緊急避難勧告発令。
出動したバキュームカー3台。
ダ●キン一個師団にかかったコストプライスレス。

「で、治りますかこれ」

専門家に話を聞く。軽トラの荷台に体育座りをしているズンダを見た医者は断言する。

「無理です」
「もう一声」
「超無理です」
「俺を殺せ」
「でも希望はまだあります」
「それを早く」
「もう一回繭化させて羽化させましょう」
「できますか」
「そこはこの薬で」

ローゼン社はすごい。なにこの「ウカール」って。コンビニで見たことがある。

「これを飲ませて小さくなるように願わせればきっと小さくなります」

早速家に帰って試してみる。

「よしズンダ、小さくなるよう願いながら寝るんだ」
「テチ」

車庫に引っ越したズンダは気安く請け負った。
よし、なんか忘れてる気がするがとりあえずよし。

「テ…テ…テ…テチュン」

次の日。
車庫が大破してた。
続かない。


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